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昔語り 過去の出逢い(物語の小さな欠片)
その日、ティルは朝から緊張していた。もうすぐ会える少年たちと仲良くできるのか、とても心配だったからだ。これはただの顔合わせではない。将来、ティルが仕えることになるであろう少年たちとの初対面なのだ。
ティルは近づく足音を聞きながら、覚悟を決めた。
何年か前のこと。ある時、外の世界から聖山にふたりの幼子が連れてこられた。
外の世界というのは山の下に広がる世界で、多くの人間たちが暮らしているところだ。彼らは山に近づかない。それは、遥か昔に人を遠ざける結界のようなものが聖山に張られたからだと、この山で暮らす者たちには伝えられている。
聖山を統べる創主の血縁だというその兄弟は、両親が亡くなったため引き取られることになったのだという。ふたりの兄弟は聖山で暮らす人々に温かく迎えられた。
おとなしい兄とは違い、弟のほうは悪戯好きで人懐こく、大きな黒い瞳を輝かせ、短い黒髪をなびかせながら飛ぶように走る姿がよくみられた。
兄の名はカルシャーク、弟の名はラジャクといい、とても仲睦まじい兄弟だった。
そして、そんな兄弟の様子を遠くから眺めている少年がいた。
「ティル、急に立ち止まってどうしたんだい?」
「な、なんでもありませんッ」
ティルと呼ばれた少年は慌てて、師匠のもとへと走り寄った。
少人数の集団で暮らしている聖山には子供があまりいない。だが、ちょうど兄弟と同じくらいの歳の少年がひとりだけいた。それがティルである。
ティルの師匠であるウォーティスは、弟子の視線の先にあったものをみて、ティルが兄弟を気にしていることに気がついた。
大人たちは幼い兄弟とその少年ティルを共に育てることにした。いずれ兄弟を補佐する役目をティルが担えばよいという、大魔導師ウォーティスの案が採用されたのだ。
そういうわけで、ティルは遠目に眺めていた兄弟たちと初めて面と向かって会うことになった。
ティルの顔をみた瞬間、カルシャークとラジャクは喜びの笑顔を浮かべた。それを見た周りの大人たちのあいだにも、ほっとしたような和やかな空気が流れる。
ティルが緊張と興奮の入り混じった表情で彼らのほうへ近づくと、カルシャークとラジャクは楽しげに笑いながらティルを迎えた。
「はじめまして、ティル。よろしくね」
カルシャークがティルの手をとって優しく声をかけると、ラジャクも笑顔で近づき元気に挨拶をした。ティルの緊張がほんの少し和らぐ。
「よろしくお願いします」
ティルはそう言って、カルシャークの手を握り返した。
彼らと過ごす時間が増えてゆくにつれ、ティルの心は次第に打ち解けていった。そして、この出会いはティルにとって大きな意味を持つこととなる。
将来のことはまだ分からない。けれど、兄弟たちと一緒に遊んだり笑ったりすることは、ティルのこれまでの単調な生活を一変させた。
いつかこのふたりのために自分にできることをしよう、ティルはそう心に決めたのだった。
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